Massie's Private Room

皆さんようこそ! 僕の部屋に招いたお客様にお話しするように書き綴ってまいります。

大学でジャズを教えるということと、オンライン授業。

僕は埼玉県川越市にある尚美学園大学という芸術・情報系の大学において、実技レッスンと大学院のアンサンブルのクラスを受け持っています。この学校で教え始めてもうそろそろ10年くらいになるでしょうか。本当にいろんなタイプの生徒と関わってきて、その度に思うのはマニュアルは通用しないということです。実技レッスンもアンサンブルのクラスも生徒ごとにクラスごとに全くやり方を変えています。相手はみんな違う一個人ですから、ある生徒に効果のあったやり方を、他の生徒に当てはめようとしても、全く通用しません。ジャズの演奏に必要な技術を身につけるための自作のエチュードみたいなものは、その間に膨大な量作りました。でも、それを整理して、ある一定の順番で生徒に与えていけば、成果が現れるということを僕は経験したことがありません。ジャズの演奏上達のための教材は無数に出回っており、当然、基礎から実践に向かって進んでいくように作られていて、それを頭から全部こなしていけば、成果が得られるように作られているのでしょうが、それは不特定多数の人に対応するように便宜的に作られたもので、1対1のレッスンというのは、そういう教本以上の成果を上げられないと存在価値は無いと思うのです。アンサンブルのクラスはもっと複雑になります。ジャズといってもいろんなスタイルがあり、生徒のレベルもまちまちなアンサンブルの授業で、全ての生徒に満足感を与えることは至難の技です。実技レッスン、アンサンブルのクラスも、まずは生徒を知ることから始めます。現在の演奏技術のレベルはもちろん、音楽の嗜好、性格の特徴、音楽を演奏する上での目標地点。他にもいろいろあります。それゆえ、どんな実技レッスンも、アンサンブルのクラスも毎回オーダーメイドです。

いやいや、ちょっと待ってくれ。そこまで至れり尽くせり、生徒の機嫌を伺ってまで生徒に合わせる必要があるのか。という考えもあるでしょう。真っ当なカリキュラムさえあれば、それをやるかやらないかは生徒次第で、やるやつは上手くなるし、やらなければ上手くならない。それで何か問題があるのか。昔の僕ならそう思っていたかもしれません。上手くも無いのに努力もしない人に、昔の僕は興味がなかったからです。では、今はどう考えているのか。まず、前提として知っておいて欲しいのは、僕は生徒にとってはかなり厳しい教師だと思います。でも、全ての生徒に対して、「この先生と関わることができて良かった。」そう思われたいんです。欲張りかもしれませんが、正直な気持ちです。そのために自分にできることには、労を惜しみません。たとえ給料をもらうためにやっていることとは言え、そうしないと自分自身が楽しく無いからです。生徒と苦楽を共にして、実技テストやコンサートの度に泣き笑い。お互いに一生懸命でなければそんなことは起こりません。そうして、これまでやってきました。

さて、オンラインの話ですが、まず白状しますと、僕はインターネットテクノロジーに弱いです。PCもMacを使っている割には使いこなしているとは程遠い状態です。なぜMacなのかというと映像が綺麗だからです。特に最近は全くテレビを見なくなってしまって、youtubeをどのクォリティーで観れるかどうかがとても重要なんです。すみません、脱線しました。

尚美学園大学ではZoomというツールを使ってオンライン授業を行いました。これについても自分なりに勉強しましたが、普段からPCを使って作編曲や音源作りをしてらっしゃる先生と比べると、本当に子供の遊び程度の使い方しかできていなかったと思います。それでも、授業の内容が貧弱だったとも思わないし、秋学期から対面授業になることを想定して、その下準備はしっかりできたと思います。もし、秋学期もオンラインでやることになったら? それは困りますねぇ。それは、もうオンラインで授業をするためのマテリアルがもう無いから?そうではないんです。それはまだまだあるんですが、オンラインで教えることができるマテリアルだけで生徒は上手くならないからなんです。楽器の音色だとかSwing感だとか、同じ空間に居れば簡単に伝えることができるものを、オンラインでやろうとすると、まだまだ機械がそのレベルに達していないと思います。教えるほうがいくら環境を整えても、教わる方にそれと同様の環境が整っていなければ意味がないですし、アンサンブルの授業に至っては、現在のIT技術では時間差の問題をまだクリアできていないので、成立すらしません。現在オンラインでレッスンをしてらっしゃる方はすでにたくさんいらっしゃいますが、それを否定するつもりはありません。我々もお金を稼がないと音楽を続けていけませんし、オンラインレッスンも需要がある限り供給すべきだと思うからです。

9月28日、月曜日、本年度初の対面授業でしたが、大学院のアンサンブルのクラスは、ちょっと感動しました。ピアノ、ギター、ヴォーカルにベースの僕が加わり、本当なら初めから楽しいアンサンブルのクラスになったはずでしたが、オンラインではアンサンブルは不可能なので、前期はそれぞれに自動伴奏に合わせて一人ずつ演奏してもらって、こちらがアドヴァイスをするという形式で進めてきました。このクラス、生徒は全員留学生で、しかも僕にとっては初めて受け持つ生徒ばかりだったので、とにかく、一人ひとり自由にやらせてみたり、具体的な課題を与えてそれをどう克服するのか試してみたりしながら、一人ひとりの人間性や音楽の嗜好、技術レベルを確認してきました。そうして、初めて一緒に演奏した訳ですが、まず単純に楽しくて、嬉しくて、相当自分自身がハイになっていたように思います。まず、一人ひとりの生音を初めて聴けた訳ですし、また、実際に演奏してみて問題のあるところでは一旦止めて、ステージ上でのコミュニケーションの取り方を説明したりしました。第一回目の授業はセッションを滞りなく進めていくために知っておかなければならないことを、たくさん講義しました。とても意味があったと思います。アドリブの内容に関しては、曲の中で和声的に特徴的な部分はなるべくその特徴が際立つように弾くと、その曲をアドリブしてる感じが伝わって、曲の理解度が高く聞こえるよ、とかそんな話をしました。もちろん僕自身の実演付きで。滞っていたものが滑り出す感じがしました。今後が楽しみです。この生徒たちと、2年間過ごすことができるのは、とても幸せなことだと思います。

その他、今年はエレキベースでジャズ科に入ってきた一年生が居たりと、今までになかったこと尽くしで、一教師として試されてるなぁ。。。と思ったりもしますが、とにかく全力でやるだけですね。全力投球するからこそ、何をやってても面白いわけで、楽をしようとすると、だいたい楽しみを一つ掴み損ねますから。

とはいえ、全ての生徒をプロの演奏家レベルに引き上げるのは難しいです。でも、先ほども言いましたように、僕自身は「この先生と関わることができて良かった。」と思われたいし、音楽以外の道に進む人たちも、ある一つのことに精一杯打ち込んだ大学生活だったと、思えるような時間にして欲しいといつも思います。それは卒業後の彼らの人生に大きく影響してくると思うからです。

ん〜〜、真面目すぎて面白くない文章になってしまいましたが、最後まで読んでくださった方には本当に感謝したいです。ありがとうございました。