Massie's Private Room

皆さんようこそ! 僕の部屋に招いたお客様にお話しするように書き綴ってまいります。

フレーズを身につけるという事。

 

東京で音楽活動を始めたのは、西暦2000年の頃だったと思います。自慢になるけど、ほんの半年も経たないうちに月に20本以上のライブでスケジュールが埋まるようになりました。その当時、「トランスクライブ(コピーのこと)とか、いっぱいしたでしょ。」と、よく言われました。自分ではその自覚がなかったので、「いや、そんなにやってないんですよ」と、答えていました。最近、山のように溜まった譜面(演奏に使う譜面ではなくて、スケッチ的なもの)を減らそうとして、1枚、1枚チェックしているんですけど、実は結構トランスクライブやってたんだなぁ、と気づきました。なぜ、その自覚がなかったのか? 考えてみると理由は二つ。トランスクライブより、自分でソロのラインを考えて、それを弾く練習をトランスクライブよりたくさんやってた事。もう一つはフレージングを身につけるよりベース奏者としての技術向上の為の練習に遥かに多くの時間を費やしてきた事、が挙げられます。そのために、トランスクライブをたくさんやったという自覚がなかったんですね、たぶん。ベース奏者に関しては圧倒的にPaul Chambersのトランスクリプションが多くて、全体の8割くらい。その他は、Ray Brown, Sam Jones, Percy Heathのがありました。(以下、トランスクライブはコピーと記述します。長いから^^) それに加えて、管楽器奏者、ピアニスト、ギタリストのコピー譜がたくさん出てきました。それらは、譜面にしてあっても、ベースで弾けない部分が多く、弾く練習をしていないので、あまり記憶に残ってなかったんだと思います。でも、自分がいま弾いているフレーズの中に、「これ、どこから出てきたんだろう?」というフレーズが沢山あって、実はそういうところから来ているフレーズだったということにも気づきました。そんな感じで譜面を読みながら一人で納得しています。あと、Jazzの演奏を始めた頃に頻繁に共演させてもらっていた軽音の先輩や、プロ・ミュージシャンの先輩のフレーズなんかを、結構いまだに使っていることも多いということに気付いたということも、10年程前にありました。

若い頃の話をすると、25歳で渡米する直前くらいにPaul Chambersのコピーをたくさんやって、渡米してからそれを弾く練習をたくさんやりました。今だったら、音大ジャズ科の学生がすることを、約5年遅れでやっと着手したんですね。とはいえ、まだ若かったですから練習の成果はすぐに表れ、シンプルな曲では、練習したフレーズが泉のように湧き出てくる感覚がありました。反対に湧き出てくる限り弾き続けてしまうので、大事なところで破綻したり、常に弾きすぎ、スペースなさすぎ、だったことは記憶にあります。

さて、では53歳のいま、同じようなプロセスでコピー〜練習すれば、同じような結果が現れるでしょうか? 残念ながら、答えはNoです。3〜4年前に、大学のレッスンで必要になり、改めてChambersが弾くOleoのベースラインをコピーしてみました。とても新鮮でした。よく考えると、彼のプレイはベースソロばかりコピーしていて、ベースラインは先程の3人、Ray Brown, Sam Jones, Percy Heathのコピーばかりだったんです。「これは、絶対身につけるべきだ!」と思い、1ヶ月ほど毎日、そのベースラインを弾く練習をしました。当然譜面なしで弾けるようになりましたが、それが全くステージの上で出てこないんです。ひとかけらもです。さすがに落ち込みました。無理やりねじ込もうと思えば出来るのでしょうけど、そういう家での練習の延長戦みたいなことはステージではやらないと心に決めているので、自然な流れで出てくるのを待つんですけど、まぁ、全く出てこないんです。なぜ出てこないのか。家で一人で弾いてる時は、譜面を見ずに何コーラス分も、スラスラ出てくるんですが、他人と合わせると出てこない。感の良い方なら、もうお分かりかと思うんですが、ベースラインというのは、ソリストのハーモニー感覚に影響されながら決まっていきます。長く演奏家人生を送っていると、例えばこういうハーモニーが聴こえてきたら、こういうベースライン。という風に無意識にシステムが出来上がっているので、今まで弾き続けてきたベースライン以外のものが頭の中で鳴らないんです。それに気付いてから、ベースラインをコピーするのはやめました。ソロに関しては、自分が主導権を握っているので、同じような練習をすればベースラインよりは出てくるかもしれませんが、それにしても横の流れがありますので(あるハーモニーに対して、このフレーズというのが縦の構造。いま弾き終えたフレーズに繋がるフレーズを弾いていくという感覚が横のつながり)やはり難しいでしょう。ただ単に歳を取ったから物事が身に付かなくなったという事ではないと思います。

そろそろまとめに入りましょうか。若い演奏家のみなさん。コピーフレーズを身につけるという作業は、バッキングにしてもソロにしても、自分なりのシステムがある程度仕上がる前に、できるだけ沢山やっておくのがいいんじゃないでしょうか? 個人差があると思いますので、僕が経験したことが皆さんに当てはまるかどうかは分かりませんが、譜面の整理をしながら考えていたことを、お裾分けをしてみたくなったので、お話ししてみました。

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